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掌編小説を掲載しています。
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銀杏並木
 秋の空は高い。夏とは違う青さの空にいわし雲。色づいてきた銀杏並木を彼女と歩いていたのが夢のようで、夢ならいいのに、とぼくは何度も思う。
そういえば、彼女は「秋の空が高い」と言う意味が解からなかった。
「なんで空が高いの?」
 と無邪気な瞳をくりくりさせながら聞く彼女が可愛くて、ぼくは「しーらない」と言って銀杏並木を駆け出した。彼女が「まてぇええ」と人目もはばからず大声を出しながら銀杏の葉っぱをサクサク踏んで追いかけてくる。
そういう彼女の、天真爛漫で、きらきらしているところがぼくは大好きだった。好きな子こそからかいたくなるのは、まだぼくが子どもだったからだろう。
毎年、銀杏並木が色づく季節には彼女が散った事故現場へ訪れる。彼女が好きだったチューハイを道路脇に供える。彼女は花なんてものに風情を感じない、男の妄想からするとちょっと残念なところがあった。けれどそういうところも好きだった。
いや、彼女自体が大好きだった。
彼女と一緒にいるだけで自然とわくわくしてきて、彼女の見せてくれる新しい世界に一々心打たれた。そして、やっぱり彼女は世界一可愛いなぁって思った。バカップル? 上等じゃねーか。
彼女のことを思い出すたび、世界の不条理を呪いたくなる。何故か彼女が事故に合わなければいけなかったのか。他の、ぼくには関係ない誰かでも良かったんじゃないか。
そう考えて、傲慢で、自分勝手な自分が嫌になって、でも結局彼女ならこんなときでも笑ってくれるんだろうな、と思って、心がぐちゃぐちゃになって、どうしようもなくなる。
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