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掌編小説を掲載しています。
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しあわせの定義
 他人の言葉の重さが解からない。
何を言われてもそのときはショックなのに、数分でそのショックを忘れてしまう。
多分、わたしと他人の間には絶望的な、宇宙的な距離があって、その過程で言葉の重さが隕石のように消えてしまうのだろう。
だから死ねって言われても、消えろって言われても、うざいって言われても、わたしは平気。
心が遠いからへらへら笑っていられる。
今日もわたしの世界はしあわせ。
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妹のこと
ぼくの妹の話なんて誰も興味がないと思うけれど、妹の話をしようと思う。それは聞いてもらうことで、何か意味があるのか、ぼくが語ることに価値はあるのか、解からないけれど、話そうと思う。
 妹は家族と言う贔屓目から見ても、とても可愛かった。髪の毛がふわふわで、声も綿菓子のように甘ったるい、周りがちやほやして、女子に嫌われるようなほどの美少女だった。
そんな妹の趣味は破壊だった。
 妹がまだ幼稚園に通っているときから、その趣味は始まっていた。アリの行列を一匹ずつ踏み潰したり、昆虫の足をもぎとったりした。特にお気に入りだったのは、蝶の羽をむしることだった。
 昆虫が死んだり、苦しんだり、もがいたりするすがたを見て、妹は更なる苦痛を与え、喜んだ。
 小学生になると、動物を壊し始めた。どこからか野良猫を拾ってきて、生きたまま解体した。そして、その肉を焼いて食べた。
 妹は無邪気な笑顔で「まぁまぁって感じだけど、まぁまぁだからあんまり美味しくないよ」と言った。
猫の断末魔は、隣にあるぼくの部屋まで聞えて、次第に家中になんともいえぬ、鉄っぽい臭いが染み付くようになった。
中学生に上がった妹は、父親を壊した。
生きたまま四肢を切断し「ダルマみたい」と甘ったるい声で笑った。切断され、ショック死している父の目に妹はフォークをつきたて、それを口に運び、キャンディのように舐めた。
妹は次に、母親を殺した。妹は母親になついていた。だからだろう。頚動脈を狙い、首を絞めてあっという間に破壊し、首を切断した。頭を切り開き、優雅な仕草で脳みそにスプーンを差し込み、食べた。
「人間の脳みそって意外に美味しいのね。確か他人の脳を食べると頭が良くなるんだっけ? 違ったっけ? ねぇ、お兄ちゃん解かる?」
 唇についた脳みその残骸を舐めながら、妹は小首をかしげた。
 幼稚園のころも、小学生のころも、中学生のころも、妹の破壊を、ぼくは隣でずっと見ていた。止めようとは思わなかった。ただ妹は破壊がしたいだけで、好きなことをしているだけなのにどうして止めなくちゃいけないのか解からなかったし、なによりぼくは妹のことが好きだった。もちろんラヴじゃなくてライク。兄妹愛としての感情だ。
 高校生になった妹は、いよいよと出番、と言うかぼくを破壊し始めた。カッターナイフ、ハサミ、包丁、チェーンソー、釘。多数のものによって、ぼくは拷問を受け、苦痛を与えられた。いっそ殺してくれ、と思うほどの激痛だった。
「なぁ」
「何? お兄ちゃん?」
「お兄ちゃんはもう耐えられない。殺して」
「それはだーめっ」
 妹はにっこりと有無を言わせず拒否し、手に持っていたチェーンソーで自分の首を切り落とした。
 ぼくは手に穿たれた釘を抜いて、妹の首から溢れる血をすすった。重たい鉄の味がした。そして、ほんのり甘かった。次に、妹の乳房を切り取り、焼いて食べた。上に載せたバターと相性バツグンで、脂肪がほどよく甘く、弾力があり、美味しかった。
 何故妹が自殺したのか。何故ぼくは妹の体を食べているのか。疑問に思っている人がほとんどだと思う。
 理由は簡単だ。
 妹は自殺したんじゃない。自分で自分を壊しただけなんだ。そして、ぼくは気まぐれで妹の肉体を食べている。気まぐれには、理由が必要ない。
 今まで様々なものを破壊してきた妹は、きっと、自分を破壊したくて仕方がなくなったのだろう。
 妹の肉を食べながら、ぼくはそう思った。
 ぼくの妹の話はこれでおしまいだ。語る価値があったのかは、ぼくにはいまだにわからないが、ぼくにはちょっぴりおちゃめな、でもとっても可愛い妹がいた、そんな自慢話だ。
時間泥棒とけいちゃん
 例えば、ネットゲームをやっていて、後五分のつもりが一時間経過していたり。
例えば、ちょっとうたた寝するつもりが、夕方まで爆睡していたり。
それは、時間泥棒の仕業かも知れません。

     * *

「時間泥棒とけいちゃん華麗に参上きゃるるーん」
 落ち着いて聞いてくれ。
俺の目の前にランドセルを背負った幼女がいるんだが、これは一体どういうことだ。
幼女はピンク色の髪に黒ニーソと俺が三次元ロリコンだったら「お嬢ちゃん、ちょっと向こう行こうか。デュフフ」って感じに可愛い。
まぁ、所詮三次元だけどな。二次元のデフォルメされた幼女には敵わん。
「あー、やっぱりこういうキャラじゃねーわ。魔女っ娘ミラクるん参考にしたけど全然ウケよくねーじゃん」
 俺がそんな二次元三次元脳内議論をしていると、ドスの利いた声が聞こえてきた。
声のほうを見ると幼女があぐらをかきながら、ランドセルから取り出したのかスルメとコーラでやさぐれていた。ランドセルにスルメとか入れるなよ……。
「あー、まぁ、そこの童貞、座れや」
 幼女に指図され、童貞の俺はおとなしく対面に座る。てか童貞ってオーラって解かるってマジなの? 何それこわい。
「わたしちゃんは時間泥棒のとけいちゃんです」
 ああ、こいつ、やっちゃいけない薬やってるな、と思った。もしくは俺の飲んだトクホペプシに謎の物質Xが混ざってたんだな、と思った。
「人の話きいてんのかコラ」
「あ、ハイ」
 ドスの利いた声に問答無用で頷いてしまう。何この三次元幼女。不法侵入の上にこえーよ。……ん? この幼女、どっから入ってきたんだ。
「幼女さん幼女さん」
「幼女とか言うなよ童貞。とけいちゃんって呼べよ」
「あ、ハイ。えと、とけいちゃん? はなにゆえ俺の部屋へ? てか鍵は? こっそり合鍵作ってたとか?」
 やべぇ、幼女(カワイイ)とフラグ立ってしまった! いや、しかし俺には二次元嫁(いんくちゃん)がいるのに。ぐぎぎぎ。
「勘違いすんなや。人の説明聞かない童貞とかマジないわー。わたしちゃんは時間泥棒って言ってんだろ」
 ああ、最初になんかきゅるるーんとかそんなこと言ってましたね。
「今月のノルマやべーから、一ヶ月ぐらい時間くんね?」
「嫌だよ! てか何だよ時間泥棒って。一ヶ月あれば何本ゲームクリアできると思ってるんだビッチ幼女!」
 ふぅむ……。ノルマとかあるんだ……。こんなんが何人もいると考えるとげんなりして限りなく透明なブルーになっちまうぜ。
温厚なことに定評のある俺のビッチ発言にも、とけいちゃんは眉をつりあげてバカにしたように
「時間泥棒は読んで字の如く、時間をドロっちゃう美少女だゾ☆」
「自称美少女こそアテになんねーんだよ!」
「はっ? 童貞ごときに言われたくねーし拒否権あると思ってるの? 問答無用! 時計泥棒奥義・時間盗みの術!」
「え、ちょ、待ってえええええええ」

     * *
 世の中には時間泥棒がいます。
しかし、中には強引な時間泥棒もいるみたいです。
殺人鬼
 わたしの友人こと由比ヶ浜恋路は殺人鬼らしい。
 らしい、とか言いつつ実はもう確定である。だってわたしは恋路が人を殺している現場を見たからだ。恋路は変人というかエキセントリックな子で、周りからはキレ者(どこが切れてるかは想像にお任せ)として評判で、殺害現場を見たときも、わたしはまぁ恋路のことだし、と思っただけだった。と言うか、まぁ、ぶっちゃけると、連続殺人事件で十一人の人間が殺されてぎゃーぎゃーワイドショーで叫んでいる時点で、犯人は恋路だろうなぁって思っていた。
 わたしが殺害現場を見た翌日、恋路はいつもと同じように謎の歌(どっかの民族の歌か? 謎である)を大声で廊下に響かせながら、カバンをぶんぶん振り回しつつ教室に入ってきた。「やぁやぁミッキーおっはろーるーららら」「今日も恋路は全開だなー」「恋路ちゃんはいつでも全力全開クライマックスだし!」なんて他愛のない会話から一日がスタート。
「ねぇ恋路」
「何よミッキー恋路ちゃんへのラヴの告白? 恋路ちゃんってバイかもしれないからオッケーの望みあるんだぜ? いぜいぜ」
「連続殺人事件知ってる?」
「もっちろん知ってるおー。恋路ちゃんはちゃんとニュースも新聞もチェックする賢い子ってのはウソで、週刊誌で見たのです。あ、読んだのです」
「昨日、十二人目の被害者が出たんだってさ」
「お悔やみもーしあげますってやつ?」
「いや、知らない人だし、解かんないし」
「ミッキー正論―。恋路ちゃん惚れ直しちゃったゾ。きゅんきゅん」
「そのことで、後で話したいことがあるんだけどさ」
「おおう、きっぐううううう。恋路ちゃんもミッキーに用があるのです」
「へー。じゃあ放課後にする?」
「おっけーおっけーべりーぐー。待ち合わせは体育館裏がいいなっ。待ち合わせといえば体育館裏だしねっ」
「それって上級生が気に入らない下級生呼び出すとこだと思うんだけど」
「え、ドキドキ放課後な恋路ちゃんとミッキーのキャットファイトでも始まるの?」
「いや、恋路が体育館裏言ったんだろが」
「てへへっ」
 そんな感じで会話が終わって、時間はどんどん過ぎてゆく。授業中も恋路は全力全開クライマックスで、授業妨害をしまくっていた。それはいつものことなので、誰も止めないし、止めたところで聞くような由比ヶ浜恋路ではないのである。教師すら諦め、恋路と同じクラスになったものは、四月時点で絶望を与えられる。ある意味恋路無双である。
 授業の合間は、とりとめのない会話をした。例えばセブンイレブンの新作プリンが美味しいとか、ブラックサンダーが鬼並みに、どちらかと言えば青鬼並みに美味いのに、カロリーがやばいばいやーなんだよーとか、それでも食べちゃう恋路ちゃんでーすみたいな、そんな感じだった。
 そして、放課後はあっという間に訪れる。担任の教師も、クラスメイトも、恋路と時間を共有する時間が終了、と言うのと放課後の開放感ですっきりした顔をしている。ただし、明日は必ずやってきて、恋路無双も訪れるのですが。
「と言うことで恋路ちゃんとのドキドキ放課後タイムにょろ!」
「はいはい」
 朝同様、カバンをぶんぶん振り回す恋路と一緒に歩く。もちろんカバンがぶつからないように注意を払っておく。恋路は学校中に知れ渡っている変人なので、恋路の姿を見つけた生徒は即座に目を逸らし、女王にそうするかのように道を開ける。そして、後でこそこそ話す。恋路の友人をしているわたしも、どうやら変人扱いされているようでまったく心外である。ま、別にどーでもいいんだけどさ。
 体育館裏はじめじめして、なんだか一年中梅雨のような、鬱蒼とした空気が漂っていた。その空気をぶち壊すように、恋路はくるくると踊りながらるんるんるーんなど口ずさんでいた。
「で、恋路ちゃんにお話とは何ですかいー?」
 ぴたりと踊りを止め、恋路がわたしの正面を向く。わたしはいきなり、本題に切り込む。
「十一人、じゃないや、十二人連続殺害事件の犯人、恋路でしょ?」
「へぇ、どうしてそう思うのでーすか?」
「十二人目の殺害現場を見たから」
「あ、見られちゃったんだ。恋路ちゃんったらドジっこ。てへっ」
 恋路は舌をぺろっと出して、いたずらっぽく笑う。
「そうですよー。十二人連続殺害事件の犯人は、な、なーんと由比ヶ浜恋路、わたくしなのです」
「うん、知ってる」
「えへへ。で、ミッキーの用事はそれ?」
「うん」
「じゃあ次は恋路ちゃんの番ね」
 その言葉が終わる前に、腹部に激痛が走った。お腹が痛いはずなのに、頭も、目も、どこもかしこも痛いような錯覚と、大量の脂汗。
 わたしのおそるおそる確かめる。わたしの腹部には包丁が根元まで刺さっていた。
「これが恋路ちゃんの用事だよ」
 恋路はそう言うと、包丁をぐりっと回して抜き取る。まるで水道の蛇口をひねったかのように、腹部から大量の血があふれ出す。わたしは立っていられなくなって、じめじめした地面に崩れ落ちる。
「恋路ちゃん、十三人を殺さなきゃいけなかったの。理由はね、魔術。知ってる? 魔女なの。ウィッチなの。十三人を殺すと、なーんと、悪魔が召喚できるのですよ」
 恋路の口調はいつもと変わらない。
「やっぱりさ、最後の生贄はミッキーって決めてたの。恋路ちゃん、ミッキーのこと好きだし。愛ってエゴじゃん? ね? じゃ、ありがとうね。愛してるよミッキーばいばーい」
 ひらひらと手を振り、恋路は体育館裏から去ってゆく。わたしの意識はどんどん薄くなっていって、確実に死ぬこと、助からないことが何故かはっきりと解かった。
 明日は必ずやってくるけど、それは生きてる人間だけだ。わたしには明日が来ない。
 薄れゆく意識の中、「ばいばい、恋路」とわたしは呟いた。そして意識が消滅する。
銀杏並木
 秋の空は高い。夏とは違う青さの空にいわし雲。色づいてきた銀杏並木を彼女と歩いていたのが夢のようで、夢ならいいのに、とぼくは何度も思う。
そういえば、彼女は「秋の空が高い」と言う意味が解からなかった。
「なんで空が高いの?」
 と無邪気な瞳をくりくりさせながら聞く彼女が可愛くて、ぼくは「しーらない」と言って銀杏並木を駆け出した。彼女が「まてぇええ」と人目もはばからず大声を出しながら銀杏の葉っぱをサクサク踏んで追いかけてくる。
そういう彼女の、天真爛漫で、きらきらしているところがぼくは大好きだった。好きな子こそからかいたくなるのは、まだぼくが子どもだったからだろう。
毎年、銀杏並木が色づく季節には彼女が散った事故現場へ訪れる。彼女が好きだったチューハイを道路脇に供える。彼女は花なんてものに風情を感じない、男の妄想からするとちょっと残念なところがあった。けれどそういうところも好きだった。
いや、彼女自体が大好きだった。
彼女と一緒にいるだけで自然とわくわくしてきて、彼女の見せてくれる新しい世界に一々心打たれた。そして、やっぱり彼女は世界一可愛いなぁって思った。バカップル? 上等じゃねーか。
彼女のことを思い出すたび、世界の不条理を呪いたくなる。何故か彼女が事故に合わなければいけなかったのか。他の、ぼくには関係ない誰かでも良かったんじゃないか。
そう考えて、傲慢で、自分勝手な自分が嫌になって、でも結局彼女ならこんなときでも笑ってくれるんだろうな、と思って、心がぐちゃぐちゃになって、どうしようもなくなる。
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