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掌編小説を掲載しています。
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殺人鬼
 わたしの友人こと由比ヶ浜恋路は殺人鬼らしい。
 らしい、とか言いつつ実はもう確定である。だってわたしは恋路が人を殺している現場を見たからだ。恋路は変人というかエキセントリックな子で、周りからはキレ者(どこが切れてるかは想像にお任せ)として評判で、殺害現場を見たときも、わたしはまぁ恋路のことだし、と思っただけだった。と言うか、まぁ、ぶっちゃけると、連続殺人事件で十一人の人間が殺されてぎゃーぎゃーワイドショーで叫んでいる時点で、犯人は恋路だろうなぁって思っていた。
 わたしが殺害現場を見た翌日、恋路はいつもと同じように謎の歌(どっかの民族の歌か? 謎である)を大声で廊下に響かせながら、カバンをぶんぶん振り回しつつ教室に入ってきた。「やぁやぁミッキーおっはろーるーららら」「今日も恋路は全開だなー」「恋路ちゃんはいつでも全力全開クライマックスだし!」なんて他愛のない会話から一日がスタート。
「ねぇ恋路」
「何よミッキー恋路ちゃんへのラヴの告白? 恋路ちゃんってバイかもしれないからオッケーの望みあるんだぜ? いぜいぜ」
「連続殺人事件知ってる?」
「もっちろん知ってるおー。恋路ちゃんはちゃんとニュースも新聞もチェックする賢い子ってのはウソで、週刊誌で見たのです。あ、読んだのです」
「昨日、十二人目の被害者が出たんだってさ」
「お悔やみもーしあげますってやつ?」
「いや、知らない人だし、解かんないし」
「ミッキー正論―。恋路ちゃん惚れ直しちゃったゾ。きゅんきゅん」
「そのことで、後で話したいことがあるんだけどさ」
「おおう、きっぐううううう。恋路ちゃんもミッキーに用があるのです」
「へー。じゃあ放課後にする?」
「おっけーおっけーべりーぐー。待ち合わせは体育館裏がいいなっ。待ち合わせといえば体育館裏だしねっ」
「それって上級生が気に入らない下級生呼び出すとこだと思うんだけど」
「え、ドキドキ放課後な恋路ちゃんとミッキーのキャットファイトでも始まるの?」
「いや、恋路が体育館裏言ったんだろが」
「てへへっ」
 そんな感じで会話が終わって、時間はどんどん過ぎてゆく。授業中も恋路は全力全開クライマックスで、授業妨害をしまくっていた。それはいつものことなので、誰も止めないし、止めたところで聞くような由比ヶ浜恋路ではないのである。教師すら諦め、恋路と同じクラスになったものは、四月時点で絶望を与えられる。ある意味恋路無双である。
 授業の合間は、とりとめのない会話をした。例えばセブンイレブンの新作プリンが美味しいとか、ブラックサンダーが鬼並みに、どちらかと言えば青鬼並みに美味いのに、カロリーがやばいばいやーなんだよーとか、それでも食べちゃう恋路ちゃんでーすみたいな、そんな感じだった。
 そして、放課後はあっという間に訪れる。担任の教師も、クラスメイトも、恋路と時間を共有する時間が終了、と言うのと放課後の開放感ですっきりした顔をしている。ただし、明日は必ずやってきて、恋路無双も訪れるのですが。
「と言うことで恋路ちゃんとのドキドキ放課後タイムにょろ!」
「はいはい」
 朝同様、カバンをぶんぶん振り回す恋路と一緒に歩く。もちろんカバンがぶつからないように注意を払っておく。恋路は学校中に知れ渡っている変人なので、恋路の姿を見つけた生徒は即座に目を逸らし、女王にそうするかのように道を開ける。そして、後でこそこそ話す。恋路の友人をしているわたしも、どうやら変人扱いされているようでまったく心外である。ま、別にどーでもいいんだけどさ。
 体育館裏はじめじめして、なんだか一年中梅雨のような、鬱蒼とした空気が漂っていた。その空気をぶち壊すように、恋路はくるくると踊りながらるんるんるーんなど口ずさんでいた。
「で、恋路ちゃんにお話とは何ですかいー?」
 ぴたりと踊りを止め、恋路がわたしの正面を向く。わたしはいきなり、本題に切り込む。
「十一人、じゃないや、十二人連続殺害事件の犯人、恋路でしょ?」
「へぇ、どうしてそう思うのでーすか?」
「十二人目の殺害現場を見たから」
「あ、見られちゃったんだ。恋路ちゃんったらドジっこ。てへっ」
 恋路は舌をぺろっと出して、いたずらっぽく笑う。
「そうですよー。十二人連続殺害事件の犯人は、な、なーんと由比ヶ浜恋路、わたくしなのです」
「うん、知ってる」
「えへへ。で、ミッキーの用事はそれ?」
「うん」
「じゃあ次は恋路ちゃんの番ね」
 その言葉が終わる前に、腹部に激痛が走った。お腹が痛いはずなのに、頭も、目も、どこもかしこも痛いような錯覚と、大量の脂汗。
 わたしのおそるおそる確かめる。わたしの腹部には包丁が根元まで刺さっていた。
「これが恋路ちゃんの用事だよ」
 恋路はそう言うと、包丁をぐりっと回して抜き取る。まるで水道の蛇口をひねったかのように、腹部から大量の血があふれ出す。わたしは立っていられなくなって、じめじめした地面に崩れ落ちる。
「恋路ちゃん、十三人を殺さなきゃいけなかったの。理由はね、魔術。知ってる? 魔女なの。ウィッチなの。十三人を殺すと、なーんと、悪魔が召喚できるのですよ」
 恋路の口調はいつもと変わらない。
「やっぱりさ、最後の生贄はミッキーって決めてたの。恋路ちゃん、ミッキーのこと好きだし。愛ってエゴじゃん? ね? じゃ、ありがとうね。愛してるよミッキーばいばーい」
 ひらひらと手を振り、恋路は体育館裏から去ってゆく。わたしの意識はどんどん薄くなっていって、確実に死ぬこと、助からないことが何故かはっきりと解かった。
 明日は必ずやってくるけど、それは生きてる人間だけだ。わたしには明日が来ない。
 薄れゆく意識の中、「ばいばい、恋路」とわたしは呟いた。そして意識が消滅する。
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