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掌編小説を掲載しています。
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妹のこと
ぼくの妹の話なんて誰も興味がないと思うけれど、妹の話をしようと思う。それは聞いてもらうことで、何か意味があるのか、ぼくが語ることに価値はあるのか、解からないけれど、話そうと思う。
 妹は家族と言う贔屓目から見ても、とても可愛かった。髪の毛がふわふわで、声も綿菓子のように甘ったるい、周りがちやほやして、女子に嫌われるようなほどの美少女だった。
そんな妹の趣味は破壊だった。
 妹がまだ幼稚園に通っているときから、その趣味は始まっていた。アリの行列を一匹ずつ踏み潰したり、昆虫の足をもぎとったりした。特にお気に入りだったのは、蝶の羽をむしることだった。
 昆虫が死んだり、苦しんだり、もがいたりするすがたを見て、妹は更なる苦痛を与え、喜んだ。
 小学生になると、動物を壊し始めた。どこからか野良猫を拾ってきて、生きたまま解体した。そして、その肉を焼いて食べた。
 妹は無邪気な笑顔で「まぁまぁって感じだけど、まぁまぁだからあんまり美味しくないよ」と言った。
猫の断末魔は、隣にあるぼくの部屋まで聞えて、次第に家中になんともいえぬ、鉄っぽい臭いが染み付くようになった。
中学生に上がった妹は、父親を壊した。
生きたまま四肢を切断し「ダルマみたい」と甘ったるい声で笑った。切断され、ショック死している父の目に妹はフォークをつきたて、それを口に運び、キャンディのように舐めた。
妹は次に、母親を殺した。妹は母親になついていた。だからだろう。頚動脈を狙い、首を絞めてあっという間に破壊し、首を切断した。頭を切り開き、優雅な仕草で脳みそにスプーンを差し込み、食べた。
「人間の脳みそって意外に美味しいのね。確か他人の脳を食べると頭が良くなるんだっけ? 違ったっけ? ねぇ、お兄ちゃん解かる?」
 唇についた脳みその残骸を舐めながら、妹は小首をかしげた。
 幼稚園のころも、小学生のころも、中学生のころも、妹の破壊を、ぼくは隣でずっと見ていた。止めようとは思わなかった。ただ妹は破壊がしたいだけで、好きなことをしているだけなのにどうして止めなくちゃいけないのか解からなかったし、なによりぼくは妹のことが好きだった。もちろんラヴじゃなくてライク。兄妹愛としての感情だ。
 高校生になった妹は、いよいよと出番、と言うかぼくを破壊し始めた。カッターナイフ、ハサミ、包丁、チェーンソー、釘。多数のものによって、ぼくは拷問を受け、苦痛を与えられた。いっそ殺してくれ、と思うほどの激痛だった。
「なぁ」
「何? お兄ちゃん?」
「お兄ちゃんはもう耐えられない。殺して」
「それはだーめっ」
 妹はにっこりと有無を言わせず拒否し、手に持っていたチェーンソーで自分の首を切り落とした。
 ぼくは手に穿たれた釘を抜いて、妹の首から溢れる血をすすった。重たい鉄の味がした。そして、ほんのり甘かった。次に、妹の乳房を切り取り、焼いて食べた。上に載せたバターと相性バツグンで、脂肪がほどよく甘く、弾力があり、美味しかった。
 何故妹が自殺したのか。何故ぼくは妹の体を食べているのか。疑問に思っている人がほとんどだと思う。
 理由は簡単だ。
 妹は自殺したんじゃない。自分で自分を壊しただけなんだ。そして、ぼくは気まぐれで妹の肉体を食べている。気まぐれには、理由が必要ない。
 今まで様々なものを破壊してきた妹は、きっと、自分を破壊したくて仕方がなくなったのだろう。
 妹の肉を食べながら、ぼくはそう思った。
 ぼくの妹の話はこれでおしまいだ。語る価値があったのかは、ぼくにはいまだにわからないが、ぼくにはちょっぴりおちゃめな、でもとっても可愛い妹がいた、そんな自慢話だ。
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